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日々、新たな服が生まれる世の中で、誰かのクローゼットにずっとあり続ける服。
繰り返し手にできる、つくり続けられている服。

グラフペーパーはスタートしたときから、そんな定番の大切さと向き合ってきました。
革新的な見栄えではないかもしれないけれど、確かに袖を通したくなる理由がある、生活に欠かせないワードローブ。
そんなグラフペーパーの新定番としてこの秋加わったふたつの素材について、ディレクターの南貴之が語ります。


―この秋冬の展示会のときに、「グラフペーパーの定番が増えた」っていうようなお話をされてたと思うんですけど、今日はそのことを聞けたらなと思ってます。

はいはい。わかりました。

―印象深かったところだと、コレとか。最初は素直にコーデュロイだと思って手に取ったんですけど…

ニット素材なんだよね。見た目は完全にコーデュロイなんだけど、カットソーみたいによく伸びて可動域もすごいんだよ。カジュアルだけど見えづらはきれいで動きやすくて…みたいなセットアップだったり、スラックスをつくってみたいなっていう気持ちがずっとあって、何年も前につくってみたんです。それは結構表面がさらっとしてるカットソー生地だったから、そこからより秋冬に特化した生地が開発できないかなっていうところで、自分がコーデュロイ好きなこともあって、その表情を目指してやってみようと。
―この生地はスムーズに完成したんですか?

いや。1回やっては気に入らなくてやり直してっていうのを繰り返して、サンプルにしてみたけどやっぱりやめて、さらに新しく生地が上がってきてやめて…とかって何度もやって、これなら面白いかなっていうところにやっとたどり着きました。

―触ってみるまでは完全にコーデュロイですよね。そのカットソーの編み方の延長で、表面に畝が出るこの表現ができたっていうことなんですか?

そうそう。スポーツウェアとかが得意な生地屋さんが試験反みたいなものを持ってたんだけど、「なにこれ?」みたいになって。その表面をコーデュロイライクにモケっとさせて、カットソーの運動性とか機能は損なわずにつくれないかなって。ただ、実際にやってみると、やってもやっても化繊ヅラになっちゃって。そのスポーツっぽいところからグッとこっち側に持ってくるっていうのは、俺がけっこうよくやる方法論だったりするんだけど。
―これ、化繊が入ってるんですか?

うん。コットンポリ(エステル)だね。

―それがこういうクラシックな太畝になるとスポーツの面影はないですもんね。それこそブリスベンモスとか、ああいったムードに近い感じがします。

そうそう。俺ももちろんそういう生地が好きなんだけど、やっぱり硬かったり重さはあるから。それが良さでもあるんだけど、そういうものを着やすさの部分で進化させられないかな…みたいなところはずっと考えてて。コーデュロイなのかなと思って触ると違和感があって、裏側を見たらカットソーだっていう不思議なバランスの生地になりました。

―でもさっき言ったような老舗のコーデュロイ生地だとこういうゆったりしたシルエットでの落ち感もまた変わってくるんでしょうね。

そうだね。普通のコーデュロイなら生地に硬さがある分、張るからね。織りでも編みでも、日本の機屋さんはやっぱり頑張ってるなぁと思うし、感謝してます。
JACKET : Soft Knit Corduroy Jacket
PANTS : Soft Knit Corduroy Chef Pants

―この生地が、新しい定番になったと。

うん。表情で秋冬をイメージしたけど、機能的には実際は春夏でもいけるだろうしね。

―そして新たに加わった定番のもうひとつが、このフランネル生地ですよね。

はい。さっき昔からやってたカットソー生地があったって話をしたと思うけど、それをウールにしたらどうなるのっていうところから始まって。僕はこの生地がすごい気に入ってるんですよ。
―この質感、ちょっと見覚えがある気がするんですが、今回が初めてですか?

実は先シーズンの期中で、俺が気まぐれでつくったんだよね。自分が着たくなって、「この生地でシャツとパンツをつくろう」と言い出してやってみたら、すごい評判が良かったみたいで。実際去年の冬はこの生地の上下を着て、あとはその上にコートを着るかダウンを着るかぐらいしかコーディネートの幅がないような生活をずっとしていて。それでこの素材を定番化させたんだけど、「この素材でブルゾンがあってもよくない?」って話になって、今回満を持してブルゾンもつくりました。

―セットアップの組み合わせのパターンが増えたんですね。

そうだね。スタンドカラーで首を守れるから暖かいし。個人的にはまたこれにコートを羽織って…っていう感じかな。自分のコーディネートは全然変わんないから。色は今回、新しいのが加わってますけどね。前回はグレーと黒だったんだけど、そこにこの茶色が加わりました。
―ただのブラウンでもないし、キャメルとも違うし、不思議なトーンですね。

そうそう。杢っぽい糸でやってるからこの色合いになるんだよね。最近茶色が気分でさ。とか言いながら、実際冬になったら黒とか着てそうだけど(笑)。
―…でも、よく考えたらこれもカットソーの派生ということは、フラノに見えてフラノではないってことなんでしょうか?

うん。組織で言ったらジャージーだね。ウールジャージー。フランネルは織りだけど、これは編み。

―コーデュロイ調も新鮮でしたけど、こっちもフランネルにしか見えないですね。しかもちょっといいクラシコとかで選ばれるような。

そうでしょ。グラフペーパーの場合リラックスしたシルエットが多いからこういう落ち感のある生地が合うんだよね。実際めちゃくちゃ温かくて、冬場も上着を着ずにこのシャツだけで過ごせることも結構多かったな。寒いときだけコートを着たりマフラーをまいたりすれば、それで充分でした。自分で実際にワンシーズン着てみて重く感じるようなこともなかったし、本当に快適。それをお店に出したら評判が良くて、俺も好きだし思った以上にみんなも好きになってくれたんだなって。
BLOUSON : Wool Smooth Flannel Track Blouson

―見た目以上に温かいのは、やっぱりウールだからなんですかね?

それは結構あると思う。ウールだけどチクチクしないし、本当に動きやすくて楽だよ。それに尽きる。いろんな服とも合わせやすいんじゃないかな?

―そもそもなんですけど、グラフペーパーでは新しい定番を毎回確実につくろうとかって決めてるんですか?

いや、まったくそんなこともなくて。うまく素材だったりの開発が進んで1年ぐらいでコレクションに加わるものもあれば、5年かかったりしてるものもあるし。あと、これはあんまり多くないけど、逆にコレクションの方でつくろうとしているものの中から「これは定番のほうがいいかな」っていうふうに変更することとかもあります。ほとんどはまずどういうものをつくろうかという意図のもとで素材の開発に入って、最終的に定番としての打ち出しをしていくっていう流れだね。

―実際に定番化が決まるタイミングっていうのは何が目安になるんですか?

「次もこれで良くね?」って思えたときかなぁ。自分が着てみたり、人が着てるのを見たりしたときに気になるところがあったらすぐ直そうとするんだけど、それでも、「このアイテムはもうこれでいいよな」って思えるときがあって。

―それってものづくりのひとつの到達点ですよね。昨今のファッション業界を見ていると変える必然性よりも、ビジネス的な必要に迫られて新しくしなきゃいけない…みたいな事情も少なくないのかなって。

なんか、それってピュアさがないように俺には見える。もちろん、世の中的にも自分としても気分が変わることは絶対あるから、そこは必要だとは思うんだけど。だから、やっぱり退屈じゃないものじゃないと、定番として残してはいけないよね。ただシンプルなだけじゃなくて、どこか自分たちのブランドの本質的な部分が表現できてるようなものだと思う。それを俺は“退屈じゃない普通を目指す”っていつも言ってるんだけど、それが結構難しくて時間がかかったりするんです。その重箱の隅をつつくような作業の答えが、自分の体験の中にあったりするから。最終的にはそれに共感してくれた人が買ってくれてるような気がします。

―南さんがグラフペーパーをやっていく上でそういう定番が増えるっていうこと自体にやっぱりポジティブな感覚があるんですね。

そもそも、もう定番の服しかつくる気がなくて。それは自分なりのね。コレクションのほうで毎シーズンテーマを決めて新しいものをつくるっていうのは脳みそがまた別の働きで、そっちも楽しくやってますけど、全体の中での分量は少ないし、基本的には定番のことばっかり考えてます。ブランドを始めてもう10年経ったし、その中でアップデートを繰り返してるから、さすがになくなったりするものとか、また出たりするものもあるんだけど。仕様を変更して、より良くなったらそれを出すっていう。アップル製品みたいな考え方なのかな。

―コレクションとそれ以外のすみ分けはそういう感覚だと。

コレクションはテーマに基づいてつくってるから基本的にはそのシーズンだけで完結する素材や色にしてるけど、形は結構ベーシックなものが多いんで、コレクションとは言っても別にずっと着られると思う。だからいわゆるトレンド性みたいなものはほとんどないし、世の中の定番がどんなものなのかはわからないけど、「うちにおいての定番はこうですよ」っていう定義づけで物をつくってる感じです。人それぞれにとっての定番があると思うしね。

―すごくわかるんですが、装いとしてのファッションだと、どうしても定番っていう存在と折り合いが悪くなったりもするんじゃないかなって。

どうなんだろうね。うちの定番は面白い服にも普通に合わせられるんじゃないかなと思うけど。でも、周りを見るとやっぱりみんな毎シーズン違うし、一生懸命やってるなぁといつも思います。だけど、そういうブランドはモードのサイクルにいるわけで、グラフペーパーもそこにいるっちゃいるんだけど、どっちかっていうと俺の場合は衣食住のほうの衣みたいな考え方だから。

ー日用品としてのワードローブということですよね?

そうそう。必要に駆られるほうの衣。何か革新的なものをつくってやろうとか、そんなつもりはまったくないし、最初からコップとか椅子をつくるような、そんな気持ちだったから。

―それでも使いやすくて飽きないコップと、あんまり愛着が持てないコップはあるわけですもんね。

そうだね。でも、じゃあそれってどこが違うのかって言ったら、それはやっぱり主観だから。基本的にはずっと俺の主観でやってきたけど、10年続くとそこに僕らのブランドを好きでいてくれたお客さんの主観っていうのも加わってきて、より多角的になってきた気はしてます。

ーでも、ビジネスとしてのファッションでは毎回新しいものを買ってもらわなきゃいけなくて、ずっと着られる定番が増えちゃうと新しいものを買う理由がなくなってしまうっていうジレンマもあるんじゃないですか?

でも、洋服もずっと着てると消耗してくるじゃない? それが味としていいっていう人ももちろんいると思うけど、やっぱり同じものを同じ状態でずっと着たい人はもう1回新しくてきれいなものが欲しくなるだろうし。それに、これは毎回言ってるんだけど、俺はいつも全然違う服を着てる人があんまり信用できないなと思ってて。別にそれがダメとかってことじゃなくて、スタイルがちゃんとある人が、「こういうの欲しかったんだけど、今までなかったんだよね」、っていうような服をちゃんとしたクオリティと値段で出したいなと俺は思ってるから。

―すごくまっとうな話ですね。

そう思うよ。自分自身も昔からクルーネックのハイゲージニットが好きでいろんなブランドで死ぬほど買ってきたけど、きっとそれってほかの人から見たらいつも同じ…決まりきったコーディネートで面白味もクソもないと思うんですよ。そんなやつがファッションやってていいのかっていう気もするんですけど(笑)、

―(笑)。でもそうしてるうちに「どんなものがいいニットで、どういうものはイマイチなニットなのか?」って、より意識的になりますもんね。

そうだね。逆に、ウチみたいな服で手間を省いていこうとしたりすると、それなりのものにしかならないっていうか。いろんなものの価格が高騰している世の中だから、「これは本質的にはいらないんじゃない?」って省ける要素があるんじゃないかは模索したりするけどね。あとは定番ってやっぱり同じところに縫い続けてもらうことが多いわけで、例えば工場さんも1、2枚しか縫わないよりも1,000枚、2,000枚縫うほうがもっと技術も品質も高くなる。定番の価値って、そういうところなのかもね。

―つくり手だからこそ分かる定番の意味ですね。

産業的な捉え方をすると、今はどんどん小さい工場とかがなくなっちゃってたりしてる国内の状況があって。ものづくりにおいてはあんまり良くない状況の中で、僕たちつくってもらう側としてはやっぱりオーダーの数をつくって、先方がビジネスとして継続していく基盤になるようなブランドになりたいっていう気持ちはずっとあります。僕らがやり続ける意味がそこにあるのかなって。

―つくり手とつくる現場、実際に着てくれる人たち、それぞれにとって理由があるものなんですね。定番って。

着る人たちには「何か新しいものが欲しい」っていう人もたくさんいると思うけど、そういうところはよそのブランドに任せればいいと思うし。だけど、例えば「とりあえずセットアップが欲しいから探しに行こう」となったときに、「そういえばグラフペーパーがずっとつくってたよな」とかっていうふうに、選ばれる選択肢のひとつになれたらいいなって思います。



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