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来る2026年の春夏コレクションから、グラフペーパー青山では新たにSETCHU(セッチュウ)の取り扱いが始まります。名だたるメゾンや仕立ての本場、世界的なアーティストの下で経験を積んできた日本人デザイナー、桑田悟史さんがイタリアを拠点に発信している異色のブランド。ディレクターの南貴之がパリで出会い、一目で惚れ込んだ被服の圧倒的なクオリティと、秘められたビジョンについて。来日中の桑田さんとパリ以来の再会を果たした南が気になるセッチュウの個性について尋ねます。前後半でお届けするトークセッション、まずは気になる服づくりの話から。

Interview & Text by Rui Konno

南 貴之(以下南):滞在最終日の忙しいときにお時間をつくってくれてありがとうございます。

桑田 悟史(以下桑田):いえいえ! こちらこそですよ。楽しみにしてました。

南:ちゃんと後で内容も確認していただくんで、この場では自由にお話できたらなと。

桑田:僕は全然見なくて大丈夫ですよ。何でも話せるので。ノリさん(セッチュウのセールスを担当する平田典之さん)が最後は判断してくれると思います。

南:そもそものきっかけもノリくんだったよね。僕がちょうどパリで展示をやってるタイミングでノリくんが「今、パリでセッチュウっていうブランドの展示会をやってるんで、良かったら遊びに来てください!」みたいに誘ってくれて。もちろんセッチュウのことは知ってたけど、それまで実物の服はしっかり見たことがなかったんです。

―その展示会で初めておふたりでお話されたんですか?

桑田:そうでしたね。

南:で、割と軽い気持ちで行ってみたんだけど、実際に見たら「…あれ? この服、どれもヤバいぞ…」となったんです。正直、最近は買い付けに行ったりして新しい服を見ても興奮するようなことってほとんどないんだけど、これは久々にヤバい服に出会ったなって。それで、「これってウチでも取り扱いできるのかな?」って聞いたんです。ノリくんも「ん? なんか話、変わってきたぞ…」みたいな顔してて。

平田 典之(以下平田):(笑)。

桑田:ノリさんのおかげもあって、すごくいいバイヤーの方々がパリの展示会に来てくださってるんですけど、南さんについてはノリさんも最初「たぶん、買ってはくれないと思うけど」っていう感じでしたよね。

平田:いやいや! そんなことないよ(笑)。

南:絶対そうでしょ。だって軽かったもん、誘い方が。でも、我々がすごく食いついちゃって。それで取り扱いをさせてほしいと伝えてから、実際に買い付けるタイミングでうちのスタッフにも行ってもらって…っていう経緯です。

―でも、セッチュウの服のどんな部分がそこまで南さんの琴線に触れたんですか?

南:全体としての服のクオリティの高さはもちろんなんだけど、ハンガーに掛かってるときのツラを見た瞬間に「この服、完全に立体にできてるな」と思ったの。これは一般の人に伝わるかわからないんだけど、洋服って結構ペタッとした平面的なつくりのものが多いんですよ。だけど、セッチュウは立体だったの。それにびっくりして。

桑田:ありがとうございます。

南:あとはひとつひとつの洋服にアイデアが利いてるんだけど、それが表立ってこないというか、嫌に目立つ感じが全然なくて。それで気になって、どういう考えでこの服をつくってるのかを桑田さんに聞いたら、それが全部腑落ちしたんですよ。それって自分の中では結構珍しいことで。コレクションの一部は好きだけど全体を見ると…っていうブランドも少なくないなかで、セッチュウはきっちり全体を通して考えられてる。そこに惹かれました。
- SETCHU 2026 S/S LOOK

―セッチュウの服が立体的というのは、どんな部分が他の多くの洋服と違うんでしょうか?

南:あれは何が違うんだろう? 縫い方なのかな?

桑田:それももちろんありますけど、一番大きなところはアイロンだと思います。

南:アイロン?

桑田:はい、アイロンを入れる回数です。イタリアの良い工場って、工程の合間合間にアイロンを入れてくれるので、できあがる服が立体的になりやすいんですよ。折り重なった布をその状態で普通に縫うと分厚い層になっていくわけなんですけど、それを縫っては開けてアイロンをかけて、また縫っては開けてアイロンを…とやることで、その層の一個一個の間が開いていくんです。それで立体的になっていくっていうのはすごくあります。

南:へぇ〜!

―セッチュウの服は現状ほぼすべてがイタリア製ですよね。桑田さんがミラノを拠点にされているのも、ものづくりの現場との距離が近いからだと以前にもお話されていましたけど。

桑田:そうですね。名前は書けないと思いますけど、ほとんどのアイテムを○○○(イタリアの某名門ブランド)の工場でつくらせてもらっています。それはすごくラッキーなことで。日々いいものがつくれるやり方を探してはいるし、日本や中国とか、これまでにもいろんなところで服はつくってきました。ただ、今は生地もほぼイタリアでつくっているので、そういう意味ではやっぱり今の場所がすごくいいですね。

南:それは僕も感じてました。やっぱり日本でつくると日本の服になるし、中国でつくると中国の服になるなって、バイヤーとしていろんなブランドの服を見てる中でずっと思ってた。それは別に質の良し悪しだけじゃなくて、単純な個性として。やっぱり日本の工場さんって日本の文化の枠の中で育っていて、服を立体的につくるのは苦手な傾向にあると思うんです。だけど、海外に目を向けると服が立体にきっちり起きてるものがたくさんあって。

―そんなに違いが出るものなんですね。

南:僕もそれが不思議で、周りのデザイナーの人たちに聞いてみたんだけど、みんな「何かをものすごく細かく指示してそうなるとかじゃなく、工場さんがそういうふうに上げてくるんだよ」って答えるんですよ。だからこそ、いい工場さんと付き合うことは本当に重要なんだなと。でも、アイロンかぁ。それはなるほどなって感じでした。

桑田:それは僕がサヴィルロウにいたときに学んだことでもありますけど、やっぱりサヴィルロウも圧倒的にアイロン、アイロン、アイロンでしたね。袖付けの作業ひとつ取ってもそうでした。例えば中国の大きい工場とかだとアイロンも全自動化されていたりするから、どうしても個性が出にくかったりして。

南:そうだよね。きっちりコピーされたような服が上がってくるのはそういうことだしね。

桑田:はい。サヴィルロウは、最後の9割がアイロンでした。あとは扇風機。

南:扇風機?

桑田:工場でもアイロンしっぱなしで終わってるところっていうのが結構あるんですけど、アイロンってかけた後に冷まさないと意味がないんですよ。例えば平織りの生地があったとして、アイロンがけをすることでその生地の組織がズレていくんですけど、そのまま置いておくと戻っちゃうんです。でもそのズレた組織を急激に冷まして、そこにまたアイロンをかけていくことで生地を痛めずにある程度の伸びができるんです。

南:へぇ! 日本刀みたいだね。

桑田:(笑)。イギリスとかイタリアの場合はそれが多いですね。例えばこのチノパンの裾とかもそうやって仕上げられてます。
―裏返して見ると、仕上げのきれいさがよくわかりますね。

桑田:イタリアのいい工場とかっていうのは、それを特に言わなくてもやってくれたりするんですよ。だけど、日本の工場さんに袖付けをお願いしてみたらそれができていなかったりとかっていうことが結構あって。

―生産国論争みたいなものは服好きの間ではよく起きますけど、そこまでの理解で語れる人はそうそういないですよね。そうやって具体的な個性や違いがわかると適材適所のものづくりができるのかなと。

桑田:実はセッチュウでも、これから時々は日本でも服をつくりたいなと思ってるんです。ヨーロッパの技術を日本に持っていったらどれくらいのレベルのものができるかなという実験です。それにはたぶん、縫い子さん以上にマネージャーの方の目がすごく大きくて。例えば日本の工場さんにイタリア人のマネージャーを連れてきたら、アイロンをかける数から変わっていくだろうなと。

南:それはすごい面白そう。どんなものができるんだろうね。

桑田:僕の場合、ラッキーだったのはサヴィルロウでの経験があるから、工場の人にも話を聞いていただけてユニークなものがつくれることだと思っていて。今のイタリアの工場の人たちがなんで僕らの大変なものづくりにちゃんと付き合ってくれるのかというと、僕のテーラリングの技術を伝えてるからなんです。「教えてもらいたい」と言ってくれて、時間があるときには僕が持っている技術について話したり、見せてあげることで関係が成り立ってる。

南:なるほどね。それでギブアンドテイクが成立してると。このチノひとつを取っても、ちゃんとそうやって意図を伝えて汲んでもらえないと、その人たちが縫いやすいやり方とかに自然となっていっちゃうもんね。

桑田:そうですね。このパンツ、実は前と後ろで身頃の形が全然違うんですよ。これを日本の工場に「このままつくってください」とお願いすると、たぶん勝手に前後のパターンを調整されたりすると思います。元が普通のバランスじゃないので。それが結果、日本っぽい服になっていく。だけど、「いや、これは前身頃に生地がしっかりあることによって歩くときにパンツが動いて、それがエレガントで面白く見えるんだ」って伝えられると「あぁ、わかったよ」となるんです。

南:それってすごい大事だよね。機械じゃなくて人間の仕事だから。そのほうが気持ちも入るだろうし。

桑田:ただ、これを縫うのはすごく難しいんですよ。内股部分だけでも前と後ろの身頃でかなりギャップがあるので、毎回印をつけていかないとダメで、手間と時間が普通のパンツの4倍かかるんです。普通に見えるんですけど(笑)。でも、こういうところの積み重ねでイタリアらしくなったりするっていうのは、確実にあると思います。
南:セッチュウの服のことがまた少しわかってきた気がする。最初は一方的に僕が「この服って、どうしてこういうふうにされてるんですか?」みたいなことを質問したような記憶があるけど。

桑田:パリにいらっしゃるバイヤーさんたちって忙しすぎて、見たもの全部を覚えてることってまずないと思うんですよ。その中で南さんみたいな方が来てくださったときには、やっぱりインパクトを残したいなと思うから、僕も色々とお話しさせていただいて。

―そうだったんですね。

桑田:僕たちは“日本発のラグジュアリーメゾンを目指してやっていく”っていう意志をずっと持っていて、他と同じようなつくりをしていたらやっぱり勝てない。だったら、なるべく正直なつくり方をしようと思ったんです。こういうジャケットのヘムの始末もいまだに全部手でやっていたり、ライニングを付けたら隠れる部分にすごく時間をかけたりとか。手でやる工程が多くなればなるほど、できあがるものは玄人向けになっていくと思うので。
南:僕も「工場でこんな服づくりがやれるの!?」って気になって、桑田さんの話と考え方が聞きたくなったからね。やっぱり服を見たらわかりますよ。これは普通じゃないぞって。セッチュウは服のつくりは完璧に洋なんだけど、やっぱり日本的な感覚もすごくあるなと僕は感じて。それこそブランド名の通り折衷だよね。

桑田:ありがとうございます。いまだにこの言葉の意味については、新しく会った方には説明してますね。海外の人だと、だいたい初めはこの単語ってうまく発音できないんですよ。「…セック?」とかって言われたり。でも、一度伝えると「日本語らしいし、その中でもすごく上品でいい音だね」と言ってもらえることが多くて。“セッチュウ”と読ませるには他にもいろんなつづりができたんですけど、この“SETCHU”にしたのは昔からあったような名前にしたかったからなんです。何年後かの将来に見たときに、クラシックに感じるものがいいなって。

南:自分も歳を重ねて昔みたいに海外のカルチャーに盲目的に憧れるようなこともなくなって、そこに対して日本の新しい文化的な表現ができないかなとずっと思ってたんですよ。だから今回、セッチュウの服を置かせてもらえることで僕らがそれを伝えていけたら、すごく面白いよなって。

桑田:ありがとうございます。正直今に関しては、ブランドとしてもほどほどに注目してもらえて、かつ注目されすぎてもいなくていいバランスだなと思っているんです。だから今の状態を崩したくないし、正直新しく取り扱いのオファーをいただいてもお断りすることがすごく多いんです。でも、ここは格好いいなっていうお店にはやっぱり置いてほしいって気持ちはずっとあって、そのひとつがグラフペーパーでした。だから、こういう出会いはやっぱり嬉しいですよ。デザイナーとして。

南:いやいや、すでに注目されてるでしょ!
―ですよね。セッチュウの名前、みなさん知ってると思いますよ。

桑田:でも、いまだに結構、僕の名前が“セッチュウ”なんだと思われてますよ(笑)。パリとかミラノのファッションウィークに行っても「やぁ、セッチュウ!」って。そういう人たちにはもういちいち説明しないで、そのまま返事しちゃってますね。

南:通り名みたいになってるんだね(笑)。

後編つづく

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桑田悟史
1983年生まれ、京都府出身。セレクトショップの販売員を経て21歳で渡英し、サヴィルロウの名門テーラー、ハンツマンで本場の仕立てに触れる。そこで働きながらセントラル・セント・マーチンズへと通い、卒業後はガレスピューやリカルド・ティッシ時代のジバンシィ、カニエ・ウエストなどの下でデザイナーとしての経験を積み、2020年にセッチュウをスタート。2023年にはLVMHプライズでグランプリを受賞した。趣味は釣りで、余暇に竿を握る時間が瞑想代わりなのだとか。

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